ピープルアナリティクス概論 ~Voice!for HRM Vol.8 ~

«
»

ピープルアナリティクスとは

従業員に関するデータをマネージメントに活用し、データドリブンな人事を実現すること全般を「ピープルアナリティクス」と呼びます。

ピープルアナリティクスの研究を世界的に牽引する、アメリカのペンシルバニア大学のビジネススクールであるウォートン・スクールでは、ピープルアナリティクスを「従業員と企業の繁栄のためにエビデンスに基づいた意思決定を支援するもの(”Evidence-based decision-making to help people and organizations thrive”) 」と位置づけています。同様に研究の盛んなMIT(マサチューセッツ工科大学)では、「行動データを活用したマネジメント変革(”Transforming Management with Behavioral Data”)」と、より振る舞いや行動に関するデータの活用に言及していますが、データを活用し、経営を変革し、企業価値向上に寄与しようという意味は共通しているといえます。

ピープルアナリティクス普及の背景

近年、AIやIoTに代表される第4次産業革命による技術の進展や、働き方改革・少子化などの雇用環境の変化に伴い、データ解析・テクノロジーを活用した諸問題の解決方法が普及してきました。

Google Trendsという検索キーワードのトレンドで調べてみても、”people analytics”, “HR tech”, “HR analytics” といったキーワードの検索は、この15年の間に右肩上がりで伸びています。(ピープルアナリティクスと似た概念で、人事領域にテクノロジーや革新的なサービスを利用することで、人事課題を解決することを「HRテクノロジー」や「HRテック」と呼びます。) covid-19の影響か、2020年の3月以降は、特に”people analytics”が急上昇しています。

Google Trends (2005年12月~2020年8月)

https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=2005-12-05%202020-08-18&q=people%20analytics,HR%20tech,HR%20analytics

前回のコラムでも紹介された、「マネーボール」という映画で、メジャーリーグベースボールのオークランド・アスレチックスという球団は、予算も限られる中、2000年代に入るとセイバーメトリクスと呼ばれるデータ分析を活用したドラフト戦略や若手選手の育成が奏功し、プレーオフの常連となるなど強豪の一角に返り咲きました。いわゆるデータを活用したタレントマネジメントともいえる取り組みは、企業の人財マネージメントにも活用できるのではないかと注目され、人事領域にも影響を与えました。

また、GoogleやAppleといった先進的な企業は積極的に人事データ分析に取り組み、課題解決や経営への貢献など多くの成果をもたらしたことで、その取組事例が多くの企業に影響を与えてきました。

ピープルアナリティクスの効果

ピープルアナリティクスの効果は目的に応じて様々ですが、大別すると、「意思決定の精度向上」「効率化・工数削減」「従業員のエンゲージメント・EX向上」が挙げられます。

まず、「意思決定の精度向上」について、属人的な経験則や主感ではなく、データから導かれた客観的事実を用いることで、公平かつ最適な判断に活用することが可能になります。例えば、新入社員の初期配属に関して、明確な基準がないまま配属を行っている企業は少なくありませんが、過去の配属の効果を検証し、各部門の傾向をもとに、各入社者の傾向や資質に応じたミスマッチの起こりづらい配属を実現することが可能になります。

「効率化・工数削減」については、人間が行うと膨大な工数がかかる作業をスピーディに処理し、数理的に人間に適切な判断を促すことが可能になります。例えば、採用では、多くの企業で担当者が書類選考や面接を行っていますが、データ分析の結果も参考にすることで効果的な採用チャネルの絞り込みなどの施策に落とし込むことが可能になり、工数削減、さらには採用の質の向上に繋げることが可能になります。

「従業員のエンゲージメント・EX向上」については、エンゲージメント調査や満足度調査、簡易的な質問を定期的に計測するパルスサーベイの結果を、人事データ・勤怠データ・従業員の行動データ等に関連づけることで、組織やチームのコンディションやボトルネック、問題となっている要素を把握し、良い組織作りや従業員のケアに活用することが可能になります。ピープルアナリティクスのプロジェクトでは、企業の収益性向上やコスト削減だけではなく、従業員側にとってもメリットがあるように、労使双方の効用最大化に務めることが重要です。


スターツリー株式会社
代表取締役 山田隆史