HRM講義「いまさら聞けないUlrich Model(前編)」~Voice!for HRM Vol.12~

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「HRの父」として、Human Resource Management を世に広めた第一人者であるミシガン大学David Ulrich氏が自身の Ulrich Model を公表してから早20年が経つ。日本では未だに重要なSubjectとして、またひとつのビジネスメソッドとして浸透しているとは言い難いだろう。

「HRとはどのように組織に貢献しているのか?」

HRで働いているまたはこれから配属される者にとって、HRとは実際どのような機能を果たしているのか、本来どのように機能すべきであるのか自信を持って語れるべきである。Ulrich氏は1998年Harvard Business出版の「A New Mandate for Human Resource」において” Should we do away with HR?” (HRを廃止するべきなのか)という実にキャッチーなセンテンスで論文を始めている。確かに、こういった疑念は実際に多くの経営者や従業員さらにはHRで働く者でさえが抱えているのではないだろうか。営業のように組織への貢献度が可視化しにくい為どのように機能しているのか一見わかりにくいというのが一般的な印象であろう。しかしながらUlrich氏は本論文の中でHRがますます重要になってきていると述べている。

組織が競争優位を保つ上で、何らかの「卓越性」を有することが要求される。この卓越性を得る上では「絶え間なき学習・クオリティーへのこだわり・チームワーク・抜本的な組織上の見直し」に力点を置きながら、組織がいかに物事を進めるかそしてどのように人財を扱うかが非常に重要であると言う。簡潔に言えば、組織の卓越性とはHRの仕事なのである。ではHRは実際に組織の中でどのような役割を果たしているのだろうか。

Ulrich氏によればHRの組織における働きは
 ① Strategic Partner (戦略的パートナー)
 ② Administrative Expert (管理のエキスパート)
 ③ Employee Champion (従業員チャンピオン)
 ④ Change Agent (変革の行為主)
に分類している。

①Strategic Partner (戦略的パートナー)

Strategic Partnerとは上流レベルでシニアやラインマネジメントと協力し、戦略を実行する上で計画を会議室から市場へと動かすことである。HRは元来、官僚主義的でペーパーワークベースの仕事として認識される傾向があるものの、Strategic PartnerとしてCEOといったエグゼクティブからラインマネージャーを巻き込む壮大な設計図を描き、それを実行へと移す非常にダイナミックな任務を背負っているのである。HRは戦略・構造・報酬・プロセスそして人財で構成される組織の設計を定義するつまりどのようにビジネスのやり方やその根底にあるモデルのようなものを特定するかの役割を担っているということである。

Administrative Expert (管理のエキスパート)

Administrative Expertは実際に現場でどのように仕事がオーガナイズされ、実行されるべきかをアドバイスする役割に言及する。コスト削減や給料計算、人件費等に関して管理する上での効率性を届けることに責任を負っている。業務上のプロセスを効率的に、早くそして安上がりに行う方法を見つけ出し、問題のある部分を修正していくこともHRの機能の一つである。例えば、ある企業では従業員向けのベネフィットプログラムを自動化させることでペーパーワーク無しで申請ができるようにしたり、採用プロセスにおいて履歴書をスクリーニングするテクノロジーを導入し、候補者を選択する時間を削減することに成功している。現在ではLinkedInを使った効率的な採用の試みやAIやIOTを活用し、業務を最適化、低コスト化することなども当てはめられる。

Employee Champion (従業員チャンピオン)

Employee Championは非常に比喩的であるものの文字通り従業員のチャンピオンになるということである。従業員の間の関心・心配事を集約し代表となってシニアマネジメントに伝達し、従業員の貢献度、コミットメントまたはエンゲージメントを高める役割を担っている。これらの指標がHRの能力・ケイパビリティーを表していると言える。近年は、旧来の職の安定・約束された昇進に基づいた契約が消え、会社と従業員の関係は脆い信頼の上に成り立っている。この関係はTransactional (取引的)であると言える。そのため、従業員のエンゲージメントは下がり、コミットする時間も当然減ることは明らかである。エンゲージメントの高い従業員とは、自分たちは評価されていると信じ、アイデアを共有し、必要とされるミニマム以上に働こうとする意志を持ち顧客と良い関係を持とうとする状態にある従業員のことである。エンゲージメントを高めるためには従業員の士気の重要性について、そのやり方についてラインマネジメントに教授すること、そして経営陣のディスカッションで従業員のVoice (声・意見)となることが挙げられる。ワークショップや社内向け文書そして従業員満足度調査を活用し、従業員の要望やキャリアプランを汲み上げ士気向上に努めることが重要である。

Change Agent (変革の行為主)

Change Agentとは組織の変革する能力を高める業務上のプロセスや企業文化を形作る変革の行為者を意味する。伝統的にHRは規制や政策がしっかりと守られているかを見守るWatchdog (番犬) 的な役割つまりはStatus-quo (現状維持)であると批判的に描写をされる機会が多いが雇用や解雇など官僚主義的な手続きのマネジメントを担っていることが要因である。凄まじい グローバル化そしてテクノロジーの発達によってビジネスを取り巻く変化のスピードは年々加速している。勝者と敗者の違いは変化のペースに適応する能力である。勝者は素早く適応し、学習しそして行動し敗者は変化をコントロールし習得しようとすることに時間を長く費やし、失敗する。新しいHRは組織の変革を活用し、そこに資金投入をする能力を築くことにも責任を担っている。そして、変化 ~ ハイパフォーマンスを生み出し、イノベーションのためのサイクル時間を軽減し、新しいテクノロジーを導入することに重きを置く ~ を常に、素早く定義、開発しそして届けることを確かめることも仕事の一つである。

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以上4つがUlrich氏が定義するHRの機能である。冒頭で述べられたように、同氏はHRの機能・役割は不必要どころかこの時代にはより重要なものになっているとしている。 次回(後編)はなぜHRがより重要な役割を果たしているのかについて紹介する。

(D.S)

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