HRM講義「いまさら聞けないUlrich Model(後編)」~Voice!for HRM Vol.13~

«
»

前編では Ulrich 氏の提唱する4つのHRの機能
 ①Strategic Partner (戦略的パートナー)
 ②Administrative Expert (管理のエキスパート)
 ③Employee Champion (従業員チャンピオン)
 ④Change Agent (変革の行為主)
を紹介した。

前編でも述べた通り、Ulrich氏はHRMの機能は現在かつてないほどに重要さを増していると主張している。HRMは一般的には官僚主義的で、お金のかかる、不必要な機能として烙印を押され続けてきたが、一体なぜその重要性が増しているのだろうか?Ulrich氏は産業や規模、活動を行う場所に関わらず、企業は重大な5つの経営課題に直面していると言う。こういった経営課題を解決するためには、新たな組織的能力・強みを形成する必要があり、その中核の担い手となるのがHRである。この5つの経営課題とは①グローバル化②成長を通じた利益③テクノロジー④知的資本⑤変化、変化そして変化である。

①グローバル化

グローバル市場が急速に拡大し、企業におけるマネージャー陣は「グローバルに考え、ローカルに動く」という逆説的な要求のバランスを保つことに奮闘してきた。 ローカルの要求を満たすためには、世界中でヒト・アイデア・製品・情報を動かすことが必要不可欠である。戦略を策定する際には不安定な政治情勢、争いが絶えない国際貿易問題,常に変動する為替、不慣れな文化等様々な要因を考慮し、世界中の顧客、商業そして競争のあり方に通じていなければならない。つまりグローバル化とは多様性・複雑性そして曖昧性を学び、上手く付き合いそしてマネジメントをすることである。

②成長を通じた利益

かつては欧米の企業の多くはダウンサイズや抜本的な再設計、管理体制の簡素化そして統合を通じて効率性の上昇やコストカットを行ってきた。こういった施策は一定の効果を上げてきたが経営者たちは別の利益方程式「歳入増幅」に勤しむ必要がある。歳入増幅の鍵は言うまでもなく組織に独特の要求を課すことである。企業は新たな顧客を開拓し、クリエイティブでイノ ベイティブな製品を開発、そして情報の自由な流れと従業員間での学習の共有を奨励しなければならない。また、急速に変化し、多種多様な顧客のニーズに通じ、市場中心主義にならなければならない。合併や吸収またはジョイントベンチャーで成長をしようとする企業は、異なる組織の業務プロセスや社風を統合するのに必要な研ぎ澄まされたスキルなどを要する。

③テクノロジー

ビデオ会議からインターネットまでテクノロジーは我々の世界を小さくそしてより迅速にしてきた。アイデアや大量の情報は常に流動的である。マネージャーにとっての課題はテクノロジーの恩恵をどのように使うかということである。全てのテクノロジーが価値を付与すると言うわけではないがテクノロジーは仕事のやり方や場所に大きな影響を与える。常に情報社会の先を行き情報のレバレッジをきかせられるように学習しなければならない。さもなければデータの高波に飲まれてしまうだろう。

④知的資本

今やアイデアや関係性(プロフェッショナルなサービス、ソフトウェアそしてテクノロジードリブンな会社)にとって知識が直接的な競争優位を生み出す原動力となった。また顧客と接する上で差別化を図ろうとする全ての企業にとって、知識は間接的な競争優位力となっている。

今後は成功を収める企業は顧客と急成長するテクノロジーに対し敏感なグローバル企業を駆動できるプレイヤーを魅了し、育て、またリテンションをすることに最も長けていなければならない。つまり、企業にとっての課題はこのように才能に満ち溢れた個人を見つけ、吸収し、育て、しっかりとした報酬を与え、リテンションを行なっていることを常に確かめることである。

⑤変化、変化そして変化

おそらく企業が直面する競争上の課題として最も大きなものとしては絶え間ない変化に適応し、またそれを受け入れることである。企業は素早く、継続的に学び、絶え間なくイノベーションを起こし、新たな戦略的要請を出せなければならない。絶え間ない変化とは企業が現状維持に健全な不快感を持ち、競合より先に新興トレンドを見つけ出し、素早い意思決定を行う能 力を身につけ、新しいビジネスのやり方を探すアジリティーを作リ出さなければならないということである。言い換えれば、成功するためには企業は終わりなき変革体制と永久的な変化を作り出し続けなければならない。


——————————–
この5つのファクターを念頭に置いて、HRのプロフェッショナルはどのように考え・振る舞うかを考えるべきである。無論、シニアエグゼクティブ陣も同様にHRに何を要求するべきか、HRに対しどのように振舞うかを考え直すべきである。例えば、社風の変化や知的資本などはビジネスの成功にとって重要でありこういった問題をシニアマネージャーが取り上げるべきである。ヒューレットパッカードは Managing people (ヒトの管理)をCEOの方針のひとつとして掲げ、HRとシニアのコラボレーションを図ってきた。このようにHRがその機能を適切な形で果たすためにはシニアマネージャーを含め会社が一丸となって戦略として実践していかなければ意味がないのである。この5つのファクターが示すようにHRの重要性は年々増し、企業の発展と存続に必要な競争優位性を確保し、ユニークな要求を組織に課すためにHRはなくてはならない機能である。HRで働く者であれば、Ulrich の定義するHRの機能に照らし合わせ、会社の競争優位性にどのように貢献し、またその重要性に関して考えて欲しい。

(D.S)

HRについて、もっと体系的に学びたい方に向けて、CIPDコースのご案内も行っております。