HRM講義「いまさら聞けないダイバーシティ (後編)」~Voice!for HRM Vol.16 ~

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前編では、企業の採用・選考プロセスにおいて直接的な差別そして間接的な差別が内在し、スキルや技術的能力など「適性」に基づく基準だけでなく、社交性、盛り上げ上手といった暗黙の「受容性」に基づく基準に従って選考が行われていることを説明した。今回は実際に採用・選考・アセスメントのプロセスでどのように差別が起きているのかそしてそれに対する打開策を紹介する。

まず面接官は仮想類似性効果そして初頭効果に影響を受けている可能性がある。

仮想類似性効果とは「サッカーが好き」など共通の趣味がある場合に、仕事に関連のある他の性質・素質があると思い込んでしまうといった具合に、面接官が仕事に関連性のないやり方で候補者と共通基盤を築いてしまうことである。この効果により自分と似た候補者を採用する傾向を強くする。一方、初頭効果とは第一印象が候補者に対する総合的な判断に大きな影響を与えることに言及する。第一印象は十分な情報を得た上での決定でなく直観であり、偏見に左右される面が大きいため、誤った方向に導きかねない。そのため、面接・パネルメンバーへの徹底的な研修が必要不可欠である。

Wood et al. (2009)は、以下のような民族性グループと想起される名前を使用した名前ベースの差別調査を実行した:アフリカ系黒人、カリビアン系黒人、中国人、インド人、パキスタン人、バングラディッシュ人そして英国白人である。また同氏は、とりわけ民営企業雇用者が統計的に英国白人と連想される名前を好み、民族的マイノリティのバックグラウンドを持つ人たちを差別してきたことを明らかにした。またCV (履歴書)と比較してスタンダードな申請書を用いている場合、雇用者の差別は遥かに少なくなる (Wood et al. 2009)。

Bradley (2007)は公式の平等政策と民族的マイノリティの背景を持つ女性の面接経験との間のギャップつまり実態を説明している。例えばイスラム教徒の衣装の着用は公式に承認されているものの実際に、イスラム教徒の女性はネガティブな経験をしているという。あるパキスタンの女性がフルタイムの事務職の面接を受け、頭にスカーフを着用しているがために面接官が彼女に対しネガティブに反応したと報告している。 「彼ら (面接官)は頭にスカーフを巻いたイスラム教徒の女性として偏見を持つ。面接に行くと面接官はこの女性は一体何ができるのかと考え始める。この人はおそらく料理か掃除かなんかが得意なんだろう。しかし、いったい何ができるのだろうか。といった具合に」 (Bradley et al. 2007: 20) 。

また、テレビ業界では採用・選考段階での階級、人種そしてジェンダーに対する過小評価、直接的・間接的な差別が明らかとなっている。また同業界では知人の紹介や縁故による採用、採用プロセスでの不透明性、主観的・非公式的なアセスメント手法が問題となっている。

あるグループが特定の職業や組織に採用されないのは、Demand factors (需要要因)またはSupply factors (供給要因)に関連する。需要要因とはあるプロセスの中で直接的あるいは間接的な差別が蔓延り、それよって候補者が仕事にむすびつくかどうか。そして供給要因とはある特定のグループの人たちは特定の仕事に応募するのかということである。

需要と供給要因は相互作用し、例えば民族的マイノリティ―バックグラウンドを持った人たちは白人至上主義的または人種差別的と認識される組織もしくはこういった人たちのキャリアのサポートが無い組織への応募を行わない傾向がある (Bradley et al., 2007, Stone and Tuffin 2000)。面接評価で取り上げられるべき問題としては「候補者をリストアップする審査官そして面接官が採用・選考のおける平等・ダイバーシティに関するトレーニングを受講したか」、「(非面接者が自らの偉業・業績について語るだろうという期待やアイコンタクトに関する習慣など)面接官はふさわしい行動に対する認識の文化的な違いに気づいているか」、「面接官は平等原理とともに多様性を認識しているか」、「面接官はそもそも多様性に満ちているか」などである。

良いプラクティスを示すものとして、「部署・職業を超えた労働者プロファイルの監視」、「採用の初期ステージで、候補者をふるいにかけるためのCVの代わりに通常の志願書を使用すること」、「面接プロセスと研修の中で平等と多様性原則を統合する」、「需要・供給要因の相互作用を無くすために、職場のダイバーシティに向けた戦略的・予測的なアプローチをとる」ことなどが挙げられる。

(D.S)