先の見えない勤務体制とコロナの終着点-欧米の事例を参考に- ~Voice!for HRM Vol.53 ~

«
»

イギリス政府は国民の55.4% (2916万5140人)へのワクチン接種 (2回目)を終えた。国民の過半数が2回のワクチンを接種したことを受け、パブやレストランなど屋内の飲食店そして映画館などがイギリス全土で再開された。徐々にではあるが絶対的な求人数も増加傾向にあり、景気の回復に向かっていると言える。

しかし、デルタ株 (インド変異)の流行によりワクチンを受けていない若者の移動再開による感染・後遺症のリスクは専門家の間でも依然として懸念されており、6月21日に予定されていた「全面正常化」は先送りにされるとの見通しである。

現在、イギリスでは依然としてリモート勤務が全面的に推奨されており、もはや在宅勤務がニューノーマルになりつつある。しかし、一部のビジネスパーソン達の間ではZoomやTeamsなどバーチャル環境下でのインテラクション (人の交流)ではアイデアがスムーズに行き来せず、イノベーションが生まれにくいため、ワクチンの普及が前進した暁には、オフィス勤務に完全移行するべきだとの見解もある。

米投資会社のゴールドマンサックス社は英国国内のバンカーに対し、7月を目処にオフィス勤務への移行を勧告している。しかし、これに対しJPモルガン社はリモートワークを依然として続行し、オフィス縮小推進の意向を示している。またHSBC社は従業員のコミュニケーションとエンゲイジメントを並行するためにハイブリッド型の働き方を提唱している。

リモートワーク下では、通勤の負担が軽減される他、育児や家事との両立などワークライフバランスが容易になるため、働きやすさや仕事への満足度の向上が多くの組織で報告されてきた。しかし、日本では自宅のスペースや夫婦間の都合、組織への帰属意識の観点でリモートワークが難しいと苦言を呈す経営者や労働者も少なくない。

向こう数年間は緊急事態宣言の発令・解除そして第三波、四波の流行が予想されるため組織のagility (機敏さ)flexibility (柔軟さ)が求められる。世界情勢を見ても、リモートワーク推進・オフィス縮小派とオフィス勤務復興派に分断されており、ベストアンサーを模索するのは難しいだろう。「白猫プロジェクト」で有名なコロプラ社は、Google Currentsなど企業向けSNSを活用し、在宅化での雑談活性を促す他、従業員の健康状態をトレイスするために従業員サーベイを運用し、エンゲイジメントを大幅に向上させてきた。

もちろんインダストリーやクライアントの特性などによってリモートの弊害やハードルに違いはあるため、同様の対策や施策を打ち出しだしたとしても全ての企業が同様の成果を挙げることは不可能である。そのため、自社の特性や課題を適宜把握しておくことが重要である。この点においては、今が自社の文化や方向性、ポジショニングについて再考する良い機会であると言える。今後はVUCAの時代を迎えると言われ、5年先でさえ世界情勢や市場、ヒトの動きを予見することが難しく、新型コロナウィルスはその序章である。近い将来何が起こるかわからないという前提で、企業経営や人的管理を考える必要がありそうである。

今現在、会社のコミュニケーションがどのように行われ、どのようなリスクをはらんでいるか、そして従業員が経営ビジョンや方向性にどの程度コミットしているかを把握しておくことはVUCAの時代には非常に重要である。

(D.S)