離職率定着率の施策は講じるべきか?–機敏で生産性の高い組織づくりのために– ~Voice!for HRM Vol.55 ~

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HR/人事部の役割と聞くと何を連想するだろうか。多くの人が抱くイメージとして、採用や労務、退職といった作業ではないか。企業が人事関連で割く予算として圧倒的に大きいのが採用費である。新卒採用では、将来活躍しそうなポテンシャルの高い学生の青田買い、中途採用では専門領域での即戦力のある人財の獲得を行う。優秀人材の獲得は企業の人事活動の中で最重要項目の一つであることは言うまでもない。

しかしながらポテンシャルのある人財、パフォーマンスの高い人財であっても何らかの原因で退職してしまっては元も子もない。そのため、優秀人材の「リテンション」は人事がオーナーシップを取るべき重要項目の一つである。そのため、退職率の低さや定着率の高さが人事部としての試金石として用いられることが多い。組織・人事コンサルティング会社の多くも、このような数値をベンチマークとする傾向が強く、退職はless is better (少なければ少ないほど良い)という概念が一般的である。

ここで皆様に考えて頂きたいのは成長する組織にとって健康的な循環は非常に重要なことである。無論、企業で活躍する人材の他社流失は悪しきことであり、企業の存続を揺らがし得るファクターの一つである。しかし、考えるべきは「誰が流出するか」である。図1は、組織の退職を再考する上で大変役に立つフレームワークである。縦軸を各ポジションや役割の中で追うべき定量的パフォーマンス (業績やアウトプット、360°評価)、横軸を退職意向 (アンケートや意識調査などでの退職可能性を指数化)とし、社内の人財が今どのポジショニングに分布しているかを可視化するのに有効的なツールである。

図1: 退職の文脈における人財マップ図

この分布図 (人財マップ)に則って退職を再考すると、どの領域の人財をリテンション (保持)するべきかが明快になる。具体的に流出させたくない人財ゾーン(右上)が特定できれば、退職意向につながる不満因子をインタビュー等で炙り出し、リテンション策を打ち出すことが可能になる。その一方で、定量的なパフォーマンスが低く、退職意向が高いゾーン(右下)に関しては、「健全流出」であると割り切り、余計な工数と費用をかけずに済ませることができる。また、パフォーマンスが低く、退職意向が低いゾーン(左下)は組織にとって非常に悩ましい領域である。アメリカやイギリスを筆頭とした欧米の組織ではこの領域のリストラを積極的に行う。

解雇に関する法律や労働組合の制約が強い日本の労働市場では、ダイナミックなリストラなどをスピーディーに行うことは難しいという現状がある。しかし、パンデミックを契機としたコロナ不況も徐々に拡大し、経営者として苦渋の決断を迫られる局面も散見される。リストラ実行の有無に関わらず、組織における退職の正当性を考える必要はあるのではないだろうか。

冒頭に言及した通り、従業員の採用と退職は人事部門の担う重要な責任である。企業のブランディングを行い、母集団を構築しつつ、ポジション・組織全体の要件に適った人財を戦略的に選考することはいかなる時代においても重要である(選考に関しては、こちらを参照)。

また、優秀な人財が流出しないように退職防止策を模索し、退職率をコントロールすることも同様に求められる。しかし、組織は時代や市場の動向と共に常に変化する水物であり、構成要素である人財が「健康的に」循環することは機敏な組織を構築する上で重要である。

退職領域では「退職率・定着率」という近視眼的な数値にとらわれず、誰が何をもって優秀か、誰の退職可能性が高いのかそして、誰をリテンション (保持)するべきかをまとめておくべきである(退職分析・リテンションに関してはこちらを参照)。

よくある人事課題

-退職率が高いが何をしてよいかわからない

-突然、優秀な人財が辞めてしまう

-パフォーマンスが低い人財にどう対処してよいかわからない

-業績に伴い、リストラを考慮にいれているがどこから手を付けていいかわからない

このような課題をお持ちの方は、ぜひ、こちらからお問い合わせください。HR歴30年以上のコンサルタント、様々な業種業態で実績のあるHRコンサルタントが貴社のお悩みに答えます!

(D.S)