ニューノーマルで求められる「リーダーシップ」とは? ~Voice!for HRM Vol.68~

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「思いやりのある リーダーシップ と信頼・透明性に基づいたコーポレートカルチャーが不可欠である」と英国Management Shift Solutions社CEOのVlatka Ariaana氏は述べる。(https://www.peoplemanagement.co.uk/voices/comment/how-leadership-style-must-change-for-new-world-work)

ハイブリッド (オフィス・在宅混合)な働き方への変化は必要不可欠である。Financial TimesのAndrew Hill氏は「テック系企業:リモート勤務かつフレキシブルな働き方。金融業界: オフィス中心で厳格な働き方。その他:ハイブリッドな働き方」と現在の状況をまとめている。

「雇用者やリーダーが今行うべきこと」に関して様々な研究が発表されてきた。例えばサーベイやアセスメントを主に行っているBarrett Values Center社による近年の調査によれば、今まさに従業員 (回答者2500人)にとって重要なことはパーパス(大きな目的)、レガシー(遺産)を残すこと、世界をより良いものにするための貢献であったという

また、人々は絶え間ない変化に対応することや身体的・精神的に健康的な状態を保つことそして家族との時間が非常に重要だと考えている。彼らは思いやりのあるリーダーやマネージャーと仕事をしたいと感じ、同時に家族との時間を十分に確保することを重要視している。

ある研究結果によれば、従業員は明快さ、リーダーへの信頼、心理的安全性、慈悲を必要とし、リーダー/トップへはこの不安定な世界においてある種の安定感を提供してもらいたいと感じているという。またこれらに加えて、リーダーに働く場所や時間そして働き方の自由・フレキシブルさを求めているという。こういった研究結果はある種、常識的であるように見える。しかし、こういった結果に反した行動を取るリーダーは今も多く散見される。例えば、モルガンスタンレー社のJames GormanやJPMorgan Chase社のJamie Dimon氏のようなリーダーは労働者の希望を度外視し、即座のオフィス勤務復活を目論んでいる。

従業員が自宅とオフィスの両方で働くフレキシブルな働き方 (ハイプリッドアプローチ)は人のつながりを維持しつつクリエイティビティやイノベーションを促進するのに役立つ。命令やコントロールではなくチームワークをベースにしたよりオープンな企業文化の創造はハイブリッド下で収益を上げるために非常に重要である。

これらを実現する上で障壁になるのが、リーダーの心理的発達能力である。現実から目を背け、従業員がベストな状態で働ける環境づくりではなくシェアホルダーの利益ばかりに注力していると優秀なタレントの競合他社への流出につながる。

厳しいルールや規制への順守など、旧態依然的なヒエラルキーに基づく命令やコントロールから抜け出し、ハイブリッド型の働き方を実現するためには新しいタイプのマネジメントスタイルやリーダーシップが求められる。このような環境下では従業員に対する絶対的なコントロールが効かないため、厳しいルールや命令は機能しない。

リーダーは自律性を重んじ、新たなアイデアの発掘実験を奨励するべきである。エンパワーメント (権限移譲)やインスピレーションを通じて従業員にポジティブな影響を与え、変化するための環境を創ることが可能になる。 リーダーは成果物を厳しくチェックしながらも従業員の仕事ぶりに信頼を置き、働く場所や時間、働き方に関して柔軟性を与えるべきである。

意思決定は分散型で、組織的ヒエラルキーではなく知識を基軸に行われるべきである。顧客/クライアントに接する者が彼らの好みを一番理解しているからである。

ハイブリッド型の環境では遠隔で従業員をコントロールすることは難しく、信頼と透明性に基づいた文化がとりわけ重要である。オフィスで過ごした時間ではなく成果や結果にフォーカスするべきである。年次のパフォーマンスレビュ―ではなく、月1など細めにフィードバックを提供することも非常に重要である。

ハイブリッド下での優秀なリーダーは適切な手順やルールそして規制の中でフレキシブルさを許容する。これがイノベーションと進歩にとって不可欠である。最低でも週の半分の在宅ワークを認めつつ、アイデア創出につながる人と人とのインテレクションが促進されるような魅力的なオフィスを用意することが重要である。

こういった戦略はハイブリッド下での生産性向上につながることが多くの研究によって立証されてきた (58社で調査)。こういったヒトに根差したリーダーシップは個人そして組織にとって様々な利益をもたらすことが証明され、新型コロナウィルスが蔓延するこの世の中ではその重要性が更に増している。

日本においても、ハイブリッドなどフレキシブルな働き方を容認する企業は年々増加傾向にあるものの、コロナ収束までの過渡期としてテレワークを活用する経営者が大半ではないだろうか。

近年では、世界中の優秀な労働者をリモートで雇用するためのサービス提供を行う米シリコンバレー発のDeel社がこの数か月でシリーズC、時価総額を1349億円まで押し上げた。今後の働き方に関するニューノーマルは時間や働く場所の自由に加え、クロスボーダー(越境)になりつつあるかもしれない。

優秀な人財を確保し、ベストなパフォーマンスを発揮してもらうためには、従業員の働きやすい環境をボトムアップで創り上げる必要がある。そのためには、世界全体の市場動向に目を向けつつも、デイリーベース (定期的に)で従業員の求める働き方や必要なサポート、マネジメントへの信頼感をチェックすることが非常に重要である。

目まぐるしく変化するこの時代では、従業員のニーズやモチベーションも短いサイクルで変化することが予想される。こういった細かい変化を捉え、Agile (機敏に)対応することこそが今の時代に求められるリーダーシップである。


(D.S)